三味線に向いている人、三味線が上達する人について、何か決まった特徴とか条件のようなものはあるのでしょうか。私はある、と考えます。とてもシンプルです。「素直であること」です。
世の中、とかく個性的であることとか自己主張することばかりがもてはやされますが、古典芸能の世界では連綿と受け継がれてきたものをそのまま次世代に伝えていくことが最も大切なことです。たかだか100年足らずの一人の人間の生涯で生み出されるものよりも数千倍、理にかなった美しいものが芸の世界にはあり、それを受け取り引き継いでいくという喜びや責任はとても重大なものです。芸能の指導者とは伝道師のことなのです。
指導者の言う内容に疑問や意見をさしはさむことなく「はい」と言える人が芸の世界では大成します。私たちは日々、稽古や師匠のご指導を通してそういう訓練をさせていただいていると言っても過言ではありません。時には師匠の言うことに「あれ?」と思うことがないとはいいません。師匠も人間ですからね。
「あれ?」と思った時でも「はい」と言えるかどうかが大切なのです。
黒いカラスを師匠が白と言えば「白です」と言えるだけでなく、次の日に同じカラスを師匠が赤と言えば「赤です」と言わなければなりません。弟子って大変です(笑)
逆に、お手本とされる師匠の立場としては芸のことだけではなく、考え方や行動、できれば見た目なども弟子を持つものとしてふさわしくあるよう心がけることもとても大切だと思っています。こう考えると、師匠より弟子をやってる方が何倍も楽ですよね!
ただし、師匠たるもの完璧であるべき、という意味ではないですよ。完璧であることがある意味欠点でもある、という例は一般社会でもよくあることです。
なお、芸事の世界は「一生勉強」というように、師匠として教えながらご自身もその上の師匠に習っていたり、別の種類の芸をその道の師匠に習っていたりする人が多いです。あくまで私の感覚ですが、教えていただくにあたって、そういう複数の立場を持っておられる人の方が信頼できるかなと感じます。私の三味線の師匠もそうですし、もちろん私もです。
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