☆彡三味線練習法 みおつくしメソッド20200423

 

 三味線を習い始めてまず戸惑うのが撥の持ち方である。今までの人生で一回もしたことがないような手の形をしなければならない。初めに苦労するだけあって三味線を長年やってきた今では、撥の持ち方を知らなかった自分にはもう戻れない、と思うほど人生の中での大事業である。私は以前Facebookに「銀行強盗にあって『人質の中で撥の持ち方ができるやつは解放しない』と言われても恐らく撥が持てないふりはできないだろう」と書いたことがある。

 

 さて、ことほどさように苦労して身に着ける撥の持ち方であるが、マスターできないからといって悲観することもない。私は三味線を初めて5年目にして撥の持ち方の矯正に成功した。師匠によると、それまでの持ち方はほんの少し変だったそうだ。私は手が小さく、指も短いという三味線弾きとしてはそこそこなハンディを背負っているのだが、習い始めの頃は小さい手でできるだけ負担が少なくスムーズに撥さばきができて、なおかつしっかりした音が出るような形に自分で持ち方をアレンジしていたようだ。そしてそのことに薄々自覚的でもあった(笑)

 

 撥の持ち方を矯正した頃はもう三味線演奏や撥さばきにもある程度慣れていたので、正しい持ち方に変えても支障がなく、全く苦労せずに矯正することができた。もし習い始めの頃に無理やり正そうとしていたら全然うまく弾けず、三味線が嫌になってしまっていたかもしれないと思う。

 

 撥の持ち方や撥さばき、三味線の構え方などなんて「形」的な要素が多い楽器だろうと思う。私は西洋楽器もいくつか経験があるが、洋楽器・和楽器合わせてもこれほど形の習得が難しいものは他にないかもしれない。というか三味線演奏における形の習得は一生かけて行うものだと思っている。今でも自分のお稽古の時は鏡を見ながら、時には試行錯誤しながらである。

 

 教室で、もちろん構え方や撥の持ち方はいろいろと指導をするがあまりそこにこだわり過ぎてもいけないなと思っている。初めが肝心、というのはあてはまらない。ただ、すぐにはマスターできなくてもお手本をよく見ておいて、自分で弾くときに正しい形をイメージしながら弾くことはとても大切である。

 

 余談であるが、私は子供の頃お箸の持ち方がきちんとできていなくて、親にもよく叱られたがついに直らなかった。三十歳くらいの時、友人が「私は二十歳過ぎて直したよ」というのを聞いて、そんな大人になってからでも直るのかとびっくりし、やってみたところほとんど苦労もなくすぐに直すことができた。三味線を始めるよりもずっとずっと前の経験である。子供の頃人から指示されてやってもできなかったことが、大人になって自発的に取り組むことで簡単にできるようになるのだということがこの時に身に染みてわかったのだ。