☆彡譜尺を使うべきか みおつくしメソッド20200512

 

 三味線にはギターのようなフレット(指で押さえるところにつけてある目印になるもの)がないので、見ただけではツボ(指で糸を押さえる箇所)がわかりません。最もよく使う音である4と6のツボは、三味線の棹に継ぎ目があるのでよく見ればわかりますが、他の音に関してはホームポジションである4のツボからの距離でツボの位置が決まります。(楽器演奏は物理学なので、物理的に正確にいえば駒からの距離なのだが、演奏にあたっては4のツボからの距離という考え方でよいでしょう)

 

 さて、初めて三味線を手に取る人はこの「ツボの位置に印がない」ということにまず戸惑います。ツボはピアノで言えば鍵盤のようなものなので、ピアノの初心者が目隠しをして曲を弾くのと同じことです。そこで「譜尺(ふじゃく)」という文明の利器が登場します。

 

 譜尺とは、紙テープ状の長細いシールに三味線のツボの位置が書いてあり、これを三味線の棹の横に貼っておいて目印にするというもので、三味線の習い初めにはこれを使うことが多いです。

 

 さて私は指導において譜尺は一切使いません。なぜなら、メリットよりもデメリットの方が大きいからです。私自身、初心者の頃は深い意味もなく、譜尺を購入するタイミングを逃していたくらいの理由で譜尺を貼っていませんでした。そのうちに買おうと思っているうちに、ツボの位置に印がなくてもそれほど大変な思いをせずになんとなく弾けるようになってきたなということに気がついたのです。反面、譜尺つきで習い始めた人がある程度たってから譜尺を外す時にとても苦労しているのを見ましたし、よその教室で、師範クラスの人でさえ譜尺つきの三味線を弾いているのも見ました。

 

 ことほどさように、一旦譜尺でツボを確認する癖がついてしまうと後々本当に苦労するのです。なぜなら、三味線というファジーな楽器は「譜面のこの音はこの場所(ツボ)で、次はこの場所」という風に目で見て演奏するものではなくて「こういう手の動きと指使いでこういう音が出たな、これは譜面と合っているな」という風に演奏するものだからです。そんな難しいこと! と思うかもしれませんが、初心者の人が恐れおののくほど難しいことではなく、意外に短期間である程度習得できるんです。

 

 なおかつ、師範クラスであってもそれ以上のレベルの人であっても、常に100%正しいツボを押さえられるというものでもありません。ただ、レベルの高い人であれば間違ったツボを押さえてしまった場合に即座に正しいツボに指をずらすテクニックによって、間違いを感じさせずにむしろあいまいな音の美しい響きを効果として聴かせることもできるんです。譜尺を使った練習ではこのようなことがなかなか習得できません。

 

 習い始めは不安であれば棹の継ぎ目を見てツボの位置の見当をつけて弾いてよいと思います。ただしのぞき込むことで演奏姿勢が猫背にならないように。そしてできるだけ早い段階で棹を見る頻度を減らすことを意識して練習するようにします。鏡を正面において練習すれば棹もあまり見ないし演奏姿勢などもチェックできて一石二鳥です。そして自分が初心者だからといって初心者の弾き方をするのではなく、上級者の弾き方をするつもりで練習しましょう。演奏において初心者の弾き方というものはありません。

 

たまたまツボがずれて変な音が出たからといって師匠から怒られたことはありませんし私も怒りません。演奏会本番などでは絶対に外したくないツボ(10のツボなど)に関してだけ一時的に印をつけるように師匠から言われます。面白いことに、わたしは演奏の中でツボの位置をあまり意識せずに弾いていることがあるので、印をつけて弾いた方が間違うこともあります。例えば、9のツボと10のツボは隣同士ですが、初めてその曲を習ったときはともかく慣れてきたら「この音は9だな」とか思って弾くのではなく、なんとなくそこに手がいって弾いた結果があっているという感じなので、印がついていることによって「えっこの音って9だっけ、10だっけ? 印のところを押さえなアカンの、それとも印の隣を押さえなアカンの?!」と頭で考えてしまい、プチパニックになったりするんです。

 

蛇足ですが、ちゃんとした三味線は職人さんの手作りですし、自然の素材を使って作るため個体差があります。なので正確に言えば、理論的に作った譜尺がすべての三味線に対して本当に正しいツボを表しているかといえばそうではないんです。