☆彡映画「ハリエット」

 

 年末の寅さん以来、久々の映画でした。農場の奴隷としてひどい扱いを受けていたメリーランド州から命がけで脱出しただけでなく、奴隷制度を廃止したペンシルベニア州とメリーランド州の間を何度も往復して数多くの奴隷たちを助けた実在の黒人女性をモデルにした物語です。

 

 私はいつもだいたい冒頭の10分くらいで、この映画は自分が好きな映画かそうでないかがわかる(今までに例外は1つだけ)のですが、この『ハリエット』はトップシーンと次のシーン、時間にして1分足らず、まだ人物も現れずセリフもない状態でめっちゃ好きだとわかりました。描かれている風景の詩的な美しさは息を呑むほど。

 

 人種差別・奴隷制度など重いテーマを扱っていながら、冒険活劇のようなさわやかな面白さがあり二時間以上全く飽きることがありません。悲しいシーンももちろんありますが、最後にほっこりするところも映画の作り方として大好きです。

 

 同じ黒人でありながら出身地によって人間として尊重されるかされないかが変わってしまったり、自由黒人として生まれ育った相手に対してハリエットが「あんたは苦労を知らない」と毒づいたり。でもその苦労を知らないと思っていた相手も同じ黒人として心から信頼できる友人なのだと感じることができたのは逃亡奴隷法という悪法が可決されたことがきっかけというのもなんたる皮肉。

 

 ハリエットたちは黒人の自由のために、逃げることよりも戦うことを選びます。この場合の「戦い」はキレイごとの「闘い」ではなく文字通りの戦争です。逃げることも戦うこともしなかったハリエットの妹は若くして命を落としますが、それすらも一つの生き方として選ばざるを得ない閉塞感の中で彼女たちは生きていたのでしょう。

 

 余談ですが、ハリエットが農場から脱出することを奴隷仲間たちに告白する時、仲間たちを救うために戻ってきた時、奴隷主に計画がばれないよう歌でそのことを伝えます。日本でも、お上への不満や皮肉、民衆の願いなどを直接は口にできないために民謡の歌詞にのせて仲間内で歌い継いできたという歴史がありました。