☆彡活水あたりはまだ 絵はがきどおりの坂  (さだまさし『絵はがき坂』より)

長崎旅行最終日のブランチの席で、『花月』の次にこの旅を忘れられないものにする出来事が起こったのです!!

行きたかったところもほぼ行きつくしたので、ゆっくりブランチでもして夕方の電車まで気ままにぶらぶらしようと、まずはホテル近くの『旅人茶屋』というカフェに入りました。店内にはいろんな旅人が置いていったであろうメッセージや写真が貼ってあったりものすごくたくさんの種類のコーヒーカップが飾ってあったりして、興味深く眺めながらカウンターでモーニングセットを食べていると、テレビで沢田研二さんのコンサート情報が流れました。するとカウンターの中にいたママさんが突然「うちの店にジュリーが3回も来たんだよ。コンサートの時に」と言ったのです。たぶん私たちと話すきっかけを探っていたんじゃないかと思います。そこからママと私たち夫婦との会話が始まりました。そして私は(あっそうや! 例のこと、ママなら知ってるかも)とひらめきました。例のことといいうのは、長崎旅行が決まる前からたびたび夫に話していた、今から25年ほど前の出来事です。

その年私は、終戦50周年の節目ということで広島→長崎の平和記念日に合わせてそれぞれの平和公園を訪ねる一人旅に出ました。長崎は初の訪問です。ある朝、泊まっていたユースホステルを出て市内のとある観光地に向かいました。とても暑い日で、駅前のミスタードーナツで何か飲んでから行こうかなあと思ったのですが、長崎まで来てミスドに入るのも何なので、少し我慢してその観光地にあるオシャレなカフェにでも入ろうと考えなおしました。汗をかきかきようやく目的の場所に着くと、イメージ通りの素敵な洋館があり、水出しコーヒーの幟がたててあるではありませんか。ここまで我慢した甲斐があったと喜んで門をくぐろうとしましたが、肝心のメニューが出ていません。大阪人は前もってウインドウなどのメニュー例を見てどのくらいの料金体系なのかを確認してからでないと決してお店には入らないのです。私は戸惑い、あたりを見回しましたが他にカフェや喫茶店などが全く見当たりません。喉の渇きも限界だったので(オシャレな建物だし高いお店かもしれないけどしょうがないな、いくらなんでもコーヒー千円なんてことはないだろうし)と希望的観測をたてて扉を押しました。

店内はたしかカウンターのみで初老のダンディなマスターが一人。出されたメニューを見て私は倒れそうになりました。コーヒー1300円、アイスコーヒー1500円。今の私なら「また来ます」ってところです。(大阪ではその店で物を買ったり食べたりしない場合「また来ます」という天使のような符号を使います。たぶんもう来ないだろうというような意味です。「考えときます」と同じ使い方です)しかし当時はうら若き30歳頃の私。とてもそんなことは言えず、暑い中歩いてきてホットコーヒーというわけにもいかず、えーいこうなりゃ1300円も1500円も一緒やん、とアイスコーヒーを注文しました。ところがそのアイスコーヒーの薄いこと。ミスドに寄らなかったことを心の底から後悔しました。そして世間知らずだった私は(水出しコーヒーってこういう薄い味なのかな)と思ったのですが、今から思えばなんのことはない、ただの薄いアイスコーヒーだったのです。

この経験が忘れられず、夫や友人にも話し、今回の長崎旅行では必ずそのお店(またはそのお店跡)を訪ねたいと思っていました。中には入らないけど外から見て今でも高いコーヒーを売っているのかを確認するためです。ところが、事前にいくらガイドブックやGoogleマップで調べてもそのお店のあったと思う場所が特定できず、現地でも「こんな建物だったかなあ。ちょっと感じが違う気がするなあ」とあやふや。

『旅人茶屋』のママだったら当時の様子も知ってるかなと思って尋ねました。「〇〇(観光地)のあのあたりに、25年くらい前に水出しコーヒーのお店があったと思うんですけど」

するとママは「うん、知ってるよ」それから少しためらった後「どっかから来て喫茶店やってたけど、商売のやり方がひどかったから長崎の人の間で評判が悪くて2年くらいで辞めて出ていったよ」と言うではありませんか! 私は「そう、そうやねんっ」と思わす大阪弁で叫びました。そして25年前の顛末を話すとママも「私も気になって、そのお店に点検(偵察のことらしい)に行ったんだからっ」と憤慨していました。

見知らぬ土地で25年も前に遭遇した出来事のうっぷんがこんな形で晴れるとはビックリで『旅人茶屋』を出たあと夫と笑い転げました。しかしよく考えると、25年前すぐ近くにあったユースホステルに私が泊まった時『旅人茶屋』はすでにあったそうなので、お店の名前やコンセプトからして当時の私が入っていないはずがないとも最近思っています。ママとも初対面ではなかったかもしれません。なんだか不思議なめぐりあわせです。

※念のため追記しますが、〇〇観光地にあったひどい喫茶店は、上記にあるようにすでに閉店しており、現存する喫茶店やお店、施設とは一切関係ありません。

※余談ですが、私が初めてミスドの「氷コーヒー」を飲んだのも長崎だったと思います(結局ミスド行ってる)。あまりのおいしさにビックリした覚えがあります。