☆彡大いなる力には大いなる責任が伴う

映画『スパイダーマン』で主人公ピーターが亡きベンおじさんから送られたこの言葉を胸に、スパイダーマンとして悪と戦い人類を救うのです。さて今日は大いなる責任のお話。

 

芸事の家系に生まれた人は親の背中を見て育ち、その芸事を継ぐ場合が比較的多いです。すべてではありません。そして芸能の側から見ても、歌舞伎のようにほぼ世襲制という芸能もあれば、文楽のように世襲でない芸能もあります。私は全く芸事には縁のない家に生まれ、大人になってから三味線と出逢いました。そして、もっともっと深く取り組んで上に行きたいと思い始めた頃、ある壁にぶちあたりました。

私の師匠はもちろんのこと、兄弟弟子たちの中にも「子供の頃から三味線・民謡をやっている」という人が数人います。彼らがうらやましくて仕方ないのです。伝統芸能の世界では「一生勉強」とよく言いますが、彼らと私とでは、一生の間に勉強できる時間数が決定的に違うではありませんか。そして幼少の頃から芸事に慣れ親しんできた人は、演奏における基本的な力とか、芸の世界で生きていく上での礼儀や考え方とかも非常にしっかりしています。せめて20年早く三味線と出逢っていたら……といくらなげいても時間は戻りません。スタートは遅れましたが私なりに一流を目指してやっていくほかないのです。

ところで、芸事に携わる人が大事に考えていくべきことが2つあると私は思っています。1つはもちろん、日々お稽古に励んで自分の技量を高めること。もう1つは、油断すれば消えてしまいそうなこの伝統芸能の灯を次の世代に必ずつないでいかなければならないということです。昭和の頃は何度か民謡ブームがあり、三味線も飛ぶように売れたといいます。ここしばらくはそのような状況になく、三味線を作る職人さんたちも高齢化から廃業への道を進む方が多いようです。三味線を弾く人が減ることよりも先に、三味線を作る人がいなくなってしまうかもしれないことに私は非常に危機感を感じています。

芸の道や職人の道は厳しいものです。長い修行も必要ですし、収入だって多くはないでしょう。自分の子供にはそんな苦労をさせたくない、普通の仕事について安泰な日々を送ってほしいと思うのも親心です。でも、伝統の世界に携わっているということは絶対に自分の代で終わりにしてはいけない大切なものを取り扱っているということではないでしょうか。最低でも自分に代わる1人を、できればもっとたくさんの人数を育てる義務があると私は思います。例えば子供がいなかったり、子供には継がせたくないとか子供がその気になってくれないとかなら、血縁に関わらず興味を持ってくれる次世代を探すこと、そして国や自治体などがその手助けをすることも必要なのではないでしょうか。

 このような考えから、私も何人かの次世代を育てていかなければならないと強く思っています。そのことが、ご指導下さる師匠や、三味線と運命的な出逢いをさせて下さった芸能の神様に対する恩返しになるのではないかと感じているのです。