☆彡文楽「ひらかな盛衰記」鶴澤清志郎さんのこと

国立文楽劇場 錦秋公演は「ひらかな盛衰記」の半通し上演です。通し上演(通し狂言)とは、一つの演目の最初から最後まで全部を上演することで、文楽では一つ一つの演目が大変長いので、普段は人気のある段だけを演じることが多いのです。段とは、演劇で言う幕のことです。今回は通し狂言に近い形で33年ぶりに上演される段もあるそうです。

やはり私は通し狂言が文楽の楽しさを一番味わえると思っています。観劇前に書籍などであらすじの予習をしておくことは必須です。あらすじを知っているのと知らないのとでは舞台を観た時の楽しさが100倍くらい違いますし、予習の際に歴史的背景や当時の人の習慣などもさらっておくとより感動するものです。

「親子は一世夫婦は二世主従は三世」という言葉があります。江戸時代の武士の人間関係は主従の関係が一番濃くて、三回生まれ変わってもそのご縁は変わらないということです。親子は一世つまり現世だけのたった一度きりのご縁ということです。これほど主従関係を大切にする人々ですから、主君の子供と自分の子供を入れ替えて自分の子を犠牲にしてでも主君の子やその血を守るという話がたくさんあり「ひらかな盛衰記」もその一つです。

とてもよくできたサスペンスで、敵方の武将も「入れ替え子をわかっていながらも見ないふりをして助ける」という、温かく知的な人間模様が繰り広げられます。

見せ場の一つ「逆櫓(さかろ)の段」での豊竹睦太夫さんと鶴澤清志郎さんの床が最高でした。特に清志郎さんの三味線は気迫のこもった速弾きや情景描写がすばらしく、目(耳)が離せませんでした。ここ数年、文楽界の大御所が次々と鬼籍に入られ寂しさと同時に少し心配もしていましたが、中堅や若手の方たちもどんどんよい技芸員さんに成長しておられ、心強く思った次第です。

 ちなみに、清志郎さんのお名前は「つるざわ せいしろう」さんと読みますが、我が家ではなぜか「キヨシロウさん」と呼んでいます。主人も私もキヨシロウさんの大ファンです。